研究施設の現状と将来計画 317
8-7 岡崎統合バイオサイエンスセンター
岡崎統合バイオサイエンスセンターは2000年に岡崎3機関の共通研究施設として設立されて以来,新たなバイオ サイエンス分野の開拓という趣旨のもと,質の高い研究を展開してきた。一方,この10年余りの間に,各種生物に おける全ゲノム配列の決定などの網羅的研究手法が大きく発展し,生物学の新たな発展の可能性が期待されている。 すなわち,生命現象に関わる素子としての分子や細胞の同定を主としたこれまでの還元論的な方法論に加え,同定さ れた分子や細胞群に関する情報を統合することにより,生命現象の本質の理解に新たに迫ることへの期待である。こ のことは同時に,生命という複雑な階層構造を持つ対象を各階層に分断し,それぞれを詳細に調べるという戦略に沿っ て進んできたこれまでの研究に対して,階層を超えたさまざまな視点からの統合的なアプローチによる研究方法の確 立と展開が求められていることを意味する。
このような状況は,分子科学から基礎生物学,生理学までをカバーする幅広い分野の研究者が結集する岡崎統合バ イオサイエンスセンタ―の存在意義をより高めるものであると同時に,このような学問的要請に本センタ―が答える ためには,生命現象を理解する上で本質的に重要ないくつかの問題について焦点を当て,それらに統合的な研究方法 を組み入れるとともに,階層を超えた研究協力体制を確立することが望まれる。そこで,2013年度において,これ までの研究領域を発展的に改組し,新たに「バイオセンシング研究領域」「生命時空間設計研究領域」「生命動秩序形 成研究領域」を設立した。各研究領域では,主に下記のような研究を実施する。
「バイオセンシング研究領域」では,分子から個体までのセンシング機構を駆使して生存している生物の生命シス テムのダイナミズムの解明に迫るために,環境情報の感知に関わるバイオセンシング機構研究を推進する。分子,細 胞や個体が環境情報を感知する機構は様々であり,異なる細胞種や生物種におけるバイオセンシング機構の普遍性と 相違性を明らかにするとともにセンスされた環境情報の統合機構も明らかにする。そのために,バイオセンサーの構 造解析やモデリング解析,進化解析も含めた多層的なアプローチを実施する。
「生命時空間設計研究領域」では,生命現象の諸階層における時間と空間の規定と制御に関わる仕組みを統合的に 理解することを目指す。短時間で起きる分子レベルの反応から生物の進化までの多様な時間スケールの中で起きる生 命現象や,分子集合体から組織・個体に至る多様な空間スケールでの大きさや空間配置の規定や制御に関わる仕組み を研究する。そのために,分子遺伝学,オミックスによる網羅的解析,光学・電子顕微鏡技術を活用したイメージング, 画像解析を含む定量的計測,などによる研究を展開し,さらに数理・情報生物学を駆使した統合的アプローチを実施 する。
「生命動秩序形成研究領域」では,生命体を構成する多数の素子(個体を構成する細胞,あるいは細胞を構成する 分子)がダイナミックな離合集散を通じて柔軟かつロバストな高次秩序系を創発する仕組みを理解することを目指す。 そのために,生命システムの動秩序形成におけるミクロ−マクロ相関の探査を可能とする物理化学的計測手法の開発 を推進するとともに,得られるデータをもとに多階層的な生命情報学・定量生物学・数理生物研究を展開し,さらに 超分子科学・合成生物学を統合したアプローチを実施する。
分子科学研究所を兼務している教員のうち,青野重利教授はバイオセンシング研究領域に,加藤晃一教授,藤井浩 准教授は生命動秩序形成研究領域に所属している。2012年度末に定年退職した桑島邦博教授の後任は,現在選考中 である。